#くらす
旅先がいつしか「ただいま」と言う場所へ
地域とのつながりが、また新たなつながりを生む
寺尾菜々さん
2023.04.20
8年前、大阪からUターンし、宮津地区にゲストハウス「ハチハウス」をオープンした寺尾菜々さん。国内外からやってくるゲストをまちの人たちとつなぎ、従来の旅行より“一歩深い”宮津を紹介しています。この地域を巻き込んだ、菜々さんのおもてなしについてお話を伺いました。
まちの人を紹介する ちょっと変わった観光案内
――こんにちは。ここがゲストルームですか? 中庭から太陽の光がさしこんで気持ち良いですね。
はい、もともとバイク屋だった建物を自分たちでリノベーションしました。この縁側は本当に日当たりが良くて、いつもゲストと腰かけのんびりおしゃべりしています。最初はみんな観光でやって来るんですが、滞在中に私がまちの人たちをどんどん紹介するから「また会いにきたよー!」って毎年来てくれるリピーターさんもいて。そういう人たちとはもう顔なじみなので、ついつい話が盛り上がります。
――え!? まちの人を紹介するんですか?
そうですよ、ゲストと一緒にまちを歩きながら、その道中で会った人を紹介したり、ゲストの興味のある分野の人を「ちょっと来て!」って声をかけて引き合わせたり。この間も動画制作が趣味のゲストがいたから、宮津でカメラマンしている子を紹介したら、「今度、一緒に仕事することになったよ」って。私としては、うちをきっかけに人がつながっていくことが一番嬉しいです。
――旅行先でそんな関係性が生まれるなんて、すごい!
うちのゲストハウスは、基本的に食事やお土産はなくて、ここらへんのお店を紹介した「ナイトマップ」を渡して、ゲストに好きなお店へ行ってもらうようにしています。
お店側も、私の顔なじみのところばかりだから、ゲストが訪ねると「ハチハウスに泊まっているの?」と気軽に声をかけてくれます。そこで話が盛り上がり、店から店へとはしごするうち、地元のお客さんも加わって最終的に10人ぐらいになったこともありました。
きっかけは「自分のまちのこと全く知らんやん!」から
――ゲストも地元の人も一緒になって楽しそう! どうやって、そのスタイルが生まれたんですか?
ハチハウスを始めた頃、ゲストから「宮津って、天橋立の他にどこへ行けばいいんですか?」って聞かれたのに全く答えられなくて。「あたし、自分の住んでいるまちのこと全く知らんやん!」って一緒に市内を回り始めたのがきっかけです。
もともと高校卒業まではこっちに住んでいたし、うちの父親が昔からバイク屋と自転車屋をしていて顔が広いんですよ。そこの常連さんとか、学生時代の同級生とか、行く先々で紹介していたら自然と話に花が咲きゲストとも仲良くなっていました。
――観光名所でもなく、特産物でもなく、人をフォーカスするって、面白いアイデアですね。
たぶん、私自身が旅行する時、人との出会いを一番大事にしているからでしょうね。ちなみに竹田さんは、旅行で大事にしていることって何ですか?
――う~ん、私は地元の特産物を食べることです。
たしかにそう答える人は多いですね、観光名所を回ったり特産物を食べたり。
けど私の場合ちょっと違っていて、「そこにしかない出会い」を大事にしたいから、旅先では現地の人に声をかけるようにしています。日本中、きれいな風景、おいしい食べものはたくさんあるけど、その人との出会いはその土地に行かないと得られないものだから。
そうやって地元の人と仲良くなると「ここから見る朝日が最高だよ」って穴場スポットを教えてくれたり、一緒に近所のラーメン屋さんに行ったり。その土地のリアルな暮らしを知れるし、話が深まっていくとその人の人生に触れることもあって、旅の楽しさが何倍にも膨れ上がるんです。
――なるほど。それは濃い旅になりますね。
例えば宮津名物の魚介類だって、獲ってくれる漁師さんや調理してくれる料理人さんがいるから、おいしく食べられるわけで、魚単体ではなく、それに関わっている人も含めて知ればもっと旅が面白くなるじゃないですか。
――地元の人と出会う旅って、ありそうでなかなかないんじゃないですか?
宮津は天橋立もきれいだし、魚もおいしいけど、やっぱり一番の魅力はここで暮らす人たち。私も昔は、「何もないところだ」と思っていたけど、大阪から戻ってきたら、地元の文化を守る人、新しい事業を始める人、地域のために奔走する人、まちをデザインする面白い人がたくさんいることに気がつきました。ハチハウスを続けているのは、そのことを知ってもらい、まちをもっと賑やかにしたいから。うちの料金には、宿泊代以外に「ゲストとまちをつなぐ代」が含まれているんです。
まちぐるみで「こんなはずじゃなかった!」旅を
――顔の見える関係ができると、また来たくなるってことですね。なんか、リピーターさんの気持ちが分かるような気がします。
一般的な観光のイメージと違うから、良くも悪くも「こんなはずじゃなかった!」って感じているでしょうけどね笑 でも、うちに来てくれたら私を含め5~6人は知り合いができるから、「また会いに行こう」って足を運んでくれるんだと思います。近所の人たちもよく分かってくれていて、私が誰かと歩いていると「ようこそ宮津へ!」「楽しんで帰ってね」と向こうから声をかけてくれるんですよ。
――なんか、まちのみんなでゲストをもてなしている感じですね。
私も、ハチハウスは自分一人で運営していると思っていなくて。ゲストがハチハウスを機に宮津の人とつながり、その出会いが思い出となって、また宮津に帰ってくる。そうして徐々にハチハウスが「旅先」から「通う場所」になり、毎年「おかえり」って迎える関係になっていく。うちは、まちのみんなとつながっているからこそ成り立っているんです。
――菜々さんにとって、まちの人たちってどんな存在なんですか?
やっぱり、ありがたいなと思いますよ。一緒にゲストをもてなしてくれることもそうだし、住宅エリアでこうやって商売をさせてもらえることも、周囲の理解があってこそだし。
だから私も、「勝手に民生委員」として普段から一人暮らしの家に声をかけたり、雪が降ったら代わりに雪かきしたり、近所のお困りごとにも積極的に関わったり。地域に貢献しながら、みんなに応援してもらえる関係作りを心掛けています。周囲の人と助け合うことって、田舎では本当に大切なことだから。
「田舎の不便さ」は大した問題じゃない
――持ちつ持たれつの関係ってことですか?
「人とつながる」と言うと、なかには面倒に感じる人もいるでしょうね、特に田舎のコミュニティーって移住者から敬遠されがちだし。でも私は、その地域に住まわせてもらっている以上、お互い歩み寄りながら、より良い方法で関わっていくことが大事だと思います。
不便な田舎暮らしだって、人のつながりがあれば誰かに助けてもらえるから。自分一人では不可能なことも可能になるし、いろんな人の知恵が加わった分もっと面白いものになる。私には、そういう仲間がたくさんいるし、地域の人とのつながりもあるから、最近は世間一般で言う「田舎の不便さ」ってたいした問題じゃないなって気がしていて。
――たしかに、助けてもらえる関係性があればそう問題じゃないのかも。今は何でも便利になって、効率を求めすぎているのかもしませんね。
早く結果が出ることを求めすぎて、そのプロセスを楽しむってことがなくなっていますね。例えば田舎は、映画を観るにも隣町まで行かないといけないけど、その道中に友達と話したり、映画についてあれこれ考えたりする時間って私は結構嫌いじゃなくて。他の人から見たら不便かもしれないけど、それを楽しめる心の余裕を持つことが大事だと思うんですよ。
地域とのつながりも一緒で、「気の合う人とだけつながっていればいい」とか、「自治会に入るなんてわずらわしいだけ」と感じるかもしれないけど、普段から付き合いがあるからこそ、いざという時に助け合えるわけで。気が合う、合わないに関係なく、人との出会い、そこで生まれるコミュニケーションを楽しむことが心の豊かさなんじゃないかな。
自分一人の力では足りないことを補ってもらうためにも、私は今後もいろんな人とつながっていきたいし、ハチハウスのゲストともたくさん時間を共有したい。それが、人やもの、こととの出会いを育みながら、この土地で丁寧に暮らすってことだと思います。
◎ハチハウス
《住所》
京都府宮津市蛭子1104
《電話番号》
080-1430-3521
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