#くらす

自然と触れ合う暮らしから溢れるインスピレーション

秋鹿(あいか)ご夫妻

2023.02.24

#くらす #移住者 #Eエリア_上宮津

Eエリア_上宮津

上宮津で陶芸家として活動する『AIKA CRAFT』秋鹿(あいか)ご夫妻。雅でない京都の器、「暮らしの器」は、なぜ生まれたのか、その原点をお伺いしました。

募る田舎暮らしへの思い

――陶芸の道に入った経緯を教えていただけますか。

秋鹿陽一さん(以後、陽一):僕は子供の頃からものづくりが好きで、高校の時からものづくりに携わるような職業に就きたいなと思っていたんですが、どちらかというとアーティストよりは職人になりたいと思っていました。それで工芸を学ぶ専門学校に入ったんですが、同じように伝統工芸というものに魅力を感じ、職人に憧れていた妻(恵美子さん)も入学していて、僕たちはそこで出会いました。卒業後、僕は滋賀県の信楽焼の工房に就職して、1日300個400個とかの食器を作っていて、妻はもっと専門的に陶芸の勉強をして先に独立しました。

ご主人の秋鹿陽一さん

――AIKA CRAFTを設立したのはいつですか?

陽一:結婚して、妻の実家の近くに工房を持った時です。工房といっても、住宅街のガレージの中に窯を置いただけの小さなものでした。

恵美子さん(以降、恵美子):はじめの頃は、実験、実験で。焼いてみないとどうなるか分からないといった感じ。作った物は友人に買ってもらったり、カフェでちょっとした作品展をやったりしていました。

妻、恵美子さん。宮津で生まれた第二子はもうすぐ1歳に

陽一:当初は陶芸一本というわけにはいかなかったので、別に仕事もしながら二足の草鞋で生計をたてるつもりで、帰宅後に制作していました。けれど、次第に帰宅もだんだん遅くなり、制作に時間を費やせなくなって、少し陶芸から離れてしまっている時期もありました。そんな中でだんだんと、昔からの夢だった田舎暮らしや、陶芸一本で生計を立てたいという思いが強くなっていったんです。

陶芸体験も開催されているAIKA CRAFTの工房

重なった偶然、憧れていた宮津での暮らし

――なぜ宮津へ移住されることになったんですか?

恵美子:宮津は私のお父さんのふるさとだったんです。子どもの頃から何回も来ていて、宮津の土地柄というか、雰囲気がとってもいいなというのが、昔からありました。私の住んでいた地域にはないような昔ながらの独特な行事があったり。

陽一:町並みとか人とかね。

恵美子:そう、そういうのが私にとってすごく新鮮だったというか。町の随所に古いものが溶け込んでいるような雰囲気がすごく好きでした。

陽一:僕も、結婚してから何度も来ていたし、陶芸に専念するなら宮津で、という思いがありました。今までは住宅街のようなところに住んできたんですけど、もっと広い家でゆったりと暮らしたいなって。宮津に行けば、畑仕事しながらものづくりもできる。最高の生活だと思いました。

現在、家の裏手には田んぼが。家族1年分はほぼ賄えるほどの収穫ができるそう。

――そんな中、宮津市の地域おこし協力隊の募集があったんですね?

陽一:そうなんです。本当に偶然、募集があって決心しました。娘がちょうど小学校に上がる前のタイミングだったとかいろんなことが合わさって、ここに辿り着いたという感じです。ただ、移住当日から大変でした。協力隊の活動で宮津特産のオリーブ栽培の手伝いを任されていたのですが、台風でビニールハウスが吹っ飛んじゃって。

恵美子:ドンピシャで大きい台風だったんですよ。気づいたら家の前の川が氾濫してて、家の前が土嚢で山盛りになってました(笑)。

陽一:移住して、最初は二足の草鞋ではあったんですが、協力隊の活動の中でも陶芸のヒントになることがありました。オリーブの栽培のためにいろんな場所の地質や土壌を調べて回っている時に、陶芸に向いている粘土質の土があると、あ、これは使えるなって。色んな土に触れられたことが、今の作風の土台になっていると思います。

移住したからこそ生まれた作風。ここだから作ることのできる器。

――宮津で暮らし始めて、創作活動に変化はありましたか?

陽一:暮らしと仕事とが、すごく密接にかんじられるようになった気がします。移住前は仕事は仕事、家は家で分かれていました。今は、陶芸のインスピレーションが暮らしの中から溢れてくるような感じです。「農」と「ものづくり」を一緒にするというか、農作業や自然から得る素材を焼物に表現したいという思いがすごく強くなりました。たとえば、お米の花なんてみたことなかった。ああ、これが食材になるんだなっていう、「初めての感動」を器に込めています。ここで畑や田んぼを始めたからこそ、そういうものをテーマに作りたいと思ったし、今のAIKA CRAFTの作風ができてきました。

恵美子:私は華やかなものよりも素朴なものが好きで、その好きっていう感じが宮津と重なるというか。京都みたいな雅な感じじゃなく、宮津の素朴な町並みの雰囲気とかが好きだなっていうのがあって、宮津みたいな器が作りたいなって思っています。
ずっと、もっと柔らかいものを作りたい、落ち着いたものを作っていきたいと思ってきて、こっちにきて今までにない材料が手に入ったり作れたり、素朴な感じを突き詰めていけるようになりました。

――お二人はそれぞれどういった器をつくっていらっしゃるのでしょうか。

陽一:宮津の素朴であたたかな器を暮らしの中へ届けたい、そんな思いから「暮らしの器」というコンセプトで普段の生活で使ってもらえるものを作っています。僕は田んぼで採れた稲を刻印したり、最近では市内の干物を提供される店とコラボして貝の刻印をした器をつくったり。宮津の素材をを映しだすような物を多く作っています。

恵美子:毎日使って、触れた時に温かみを感じるものが作りたくて。近くの土を原料に釉薬を配合したりして、宮津を感じることのできるような器を作っています。

――お二人とも違う表現の仕方で宮津を感じることのできる器を作られているんですね。

工房の隣の建物には作品を実際に見ることのできるスペースもあります

人との繋がりが新しい発想を生む、人の優しさに触れるたび心が温かくなる

――住居を上宮津に決められたのはなぜですか?

陽一:この家があったからですね。いろんな地区の物件を見ましたけど、工房と家とで二つの建物があればいいなと思っていました。最初は移住者なんで、そんなに地域の人と触れ合うこともないのかなと思っていたんですけど、そんなことはないですね。いろんな声がかります。
みんなとにかく元気で(笑)。60代70代の人たちがほんとにすごい。もちろん減ってる人数の方が多いですけど、若い人も増えてきて活気があります。お祭りはもちろん、駅伝があったり、地域の運動会があったり。そういった活動が活発な地域です。

上宮津でも少し山手にある今福地区。庭には大きなオリーブの木が

――移住者として、住みやすさはどうですか?

恵美子:市街地からも近いし、駅もあるし、インターからも近いし。自然は多いんですけど、意外と不便なく暮らせます。あと、小学生の娘がよく言ってるのは、近所の人がよく声をかけてくれるって。この前も、学校帰りにおっちゃんが「これ持って帰り」ってさつまいもをくれたらしいです。誰かわからなかったけど「秋鹿さんのとこの子やな」って。こっちとしては誰かわからなくてお礼も言えなかったけど。娘も結構この土地を気に入ってるんじゃないかと思います。

――宮津の魅力はなんでしょうか。

陽一:自然もあって歴史もあって、行事が多い。それだけ、やってきたものがあるんだなって。そんな文化が素晴らしいと思います。あとは、いろんなプロフェッショナルが各地域にいることでしょうか。丹後ちりめんの職人もいるし、木を扱っている人もいる。海や山の仙人みたいな人だってつながることができる。今、そうやって人脈がかけ合わさって、大きな動きが起きてきていると感じます。人とのつながりが新しい発想につながっていく。そんな面白さも魅力だと思いますね。

恵美子:ここでは食べ物が土からできてるんだなあってことをすごく実感しています。田んぼがあって、稲がどんどん大きくなっていって、お米になっていく、そういうことを感じるのは、都会ではなかなかできないことなのかなと。街はアスファルトばかりですけど、宮津は土が見えてるっていうか。それがいいのかなって。最近では野草にはまっていて乾燥させて炊いて、お風呂にしたりとか、お茶みたいに飲んだりとか。そういう、自然の力をいっぱい感じられます。

AIKA CRAFTの器でいただくお茶は時間の流れをゆっくりと感じさせてくれました。

それと、おばあちゃんたちの優しさかな。今、上宮津は路線バスの維持困難のため、地域の人たちで運転手を回す有償運送バスという取り組みをしていて、私たちもその運転手のお仕事をさせてもらっています。車をもっていない、地域のおじいさんおばあさんが街まで通院やお買い物をするために利用されるんですが、乗り合わせたおばあちゃんたちが会話してるんです。「社会人になった孫の帰りが遅いから、帰った時に家が寒いと可哀想やし、ストーブつけて温かくして待っててあげとるんや。生まれた時からしっとるから、いくつになっても可愛いもんは可愛い」というような。

私も、生前の祖母が会うたびに「えみちゃんが健康で元気に過ごせますようにって、仏さんに手を合わせてお祈りしとるんやで」という言葉をかけてくれてたのが子供ながらいつも嬉しくて、このおばあちゃんたちの会話が祖母の姿にも重なり、宮津弁の柔らかい言葉とおばあちゃんたちの優しさに触れるたびに心が温かくなります。

田植えの季節の上宮津。この自然の中からお二人の器が作られています。
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