#その他

足もとから全身の健康を支える
『足の爪切り専門店 アシモトライト』

大原千佐子さん

2022.06.15

#その他 #移住者 #Cエリア_栗田_由良

Cエリア_栗田_由良

巻き爪やうおのめなど、足のトラブルを解決してくれる栗田地区の『足の爪切り専門店 アシモトライト』。施術にあたる大原千佐子さんは、看護師時代のある経験からフットケアの重要性に気づき、現在のお仕事に転職されました。
足の爪の役割や、大原さんが目指す「足もとから健康を」との思いについて、実際に施術を体験しながらお話を伺いました。

爪の問題を抱えて苦しむ人たちのために

——大原さんはもともと看護師をされていたそうですね。

はい、大学院で公衆衛生を学んだ後、看護師として国際医療ボランティアに所属し東南アジアなどで看護活動していました。
フットケアに興味を持ったのは、その後、東京で形成外科医と在宅医療に回っていた頃。当時、爪に関する相談が非常に多く、本来の診療を上回るほどでした。「爪切り難民」という言葉が広まる中、「こんなに困っている方がいるなら力になりたい」とフットケアの学校に通うことにしたんです。

——学校に入学し、フットケアを専門的に学ばれたんですね。

えぇ、美容系とか医療系とか、フットケアの学校にもいろんな種類があるんですが、私が通ったところはドイツ式です。日本ではあまり知られていませんが、ドイツには足を専門に研究する「足学」という学問があり、フットケアは国家資格にもなっています。在学中は、私も足や爪の構造、筋肉の付き方などを実践的に学び、ドイツの国家資格を基にした日本版「プロフェッショナルポドロジスト」を取得しました。

大原さんは、豊富な看護師経験に加え、フットケアに関しても専門的な知識や技術をお持ちです。

——看護師の仕事を辞めてフットケアの道に進むって勇気のいる決断ですね。何が原動力になったんですか?

それまで長年看護師として働き、爪の悩みで苦しむ人たちをたくさん見てきました。当時は専門的な知識や技術がなく、適切な処置をできなかったので、その方々に対する後悔というのかな。「苦しんでいる人たちがいるなら、なんとか助けたい」という一心でした。

ずっと長くお付き合いできる関係を

——では、「アシモトライト」はいつ頃スタートしたんですか?

2018年に宮崎県都城市にある高崎町というところで始めました。
当初は「東京でお店を」と考えていましたが、2011年の東日本大震災で生活物資がなくなり、街中が大混乱する様子を見て、「生き方を変えた方がいい」と感じたんです。畑で野菜を育て、鶏を飼って卵を得るような、自分の力で生きられる方法を探そうって。
ちょうど募集していた高崎町の地域おこし協力隊に応募し、隊員として活動しながらフットケアを学び店を出しました。

——では、その後宮津市に?

はい、コロナウイルスが流行後、両親が感染した時のことを考え実家のある京都へ引っ越しました。「自然に囲まれ、自給自足しながら子育てできる場を……」と探していたら、たまたま宮津に立ち寄ることがあって。あの時、上世屋エリアの山の上から見た橋立の景色が本当に美しく、「住んでみたい」と思ったんです。
それと、宮津市内に足の爪切り屋さんが一軒もなかったこと。「きっと困っておられる方がおられるだろうからお役に立ちたい」と思い、移住を決めました。

大原さんの楽しみは、満月の夜にこの砂浜から海を見ること。「月の道がキラキラ光る風景がとてもきれいなんです。他にも、子どもと一緒に岩穴から出てくるカニを追いかけたり、風が強い日にはシャボン玉がどこまで飛ぶか挑戦したり。宮津は日常的に自然に触れられる場所です」

——お店の物件はすぐに見つかりましたか?

そうですね、移住者向けのWEBサイトで、この栗田地区にちょうどいい物件を見つけました。もともと歯医者さんだった建物で、少し改修が必要でしたが、宮津商工会議所の「宮津市魅力ある商いのまちづくり支援事業補助金」(※2022年度は宮津市ビジネス振興補助金の中の創業等支援事業補助金が同種の補助金)を活用させてもらい、負担費用をかなり抑えることができました。
お店が完成し、オープンしたのは2021年の1月。宮崎県高崎町の時は、実家のある京都へ帰るため宮崎のフットケア専門の看護師さんにお客様を引継ぎましたが、今度は定住を決めていたので、「ずっと長くお店を続けていこう。身近にあって、小さな子どもさんから高齢者まで、それぞれのライフステージの足の悩みに寄り添える、そんな地域に根差したお店にしよう」と思いました。

痛みを繰り返さないために根本的解決を

——宮津で開業後、どんなお客さんが多いですか?

巻き爪などの足のトラブルが起きた方や、「爪が分厚くなって自分で切れない」という方。あと、子どもさんの爪の切り方、靴の選び方を教えてほしい、と親子で相談に来られる方もあります。
うちの場合、たんに痛みや辛さをケアするだけでなく、根本的な解決を目指します。巻き爪だって、原因を理解しなければ数年後に再発し、また痛い思いをすることになります。施術では爪の形や指の動きをしっかり観察し、歩き方や靴の選び方までじっくり伺うようにしています。もし歩き方に問題がある場合なら、改善のために指の運動をアドバイスしたり、爪の切り方を伝えたり、個々の歩き癖に応じた対処法を一緒に探り、適切なアプローチを考えます。

淡いクリーム色を基調とした落ち着いた空間。ゆったり椅子に腰かけ、リラックスした雰囲気の中、施術が行われます。

——痛みのケアだけでなく、そこまでしっかり診てくれるんですね。だけど爪って命に別状がないので、つい後回しにしてしまう人が多いのでは?

たしかに足の爪は人に見せづらい部分で相談しにくく、「どこで診てもらったらいいか分からない」と放っておく人が多いです。でも足には心臓へ血液を戻すポンプの役割と、膝や内臓を守るクッションの役割があり、これらを正常に機能させる上で爪は非常に重要な働きをしています。
それに、爪や足先が健康になると、生活習慣も変わってきますよ。まず姿勢が正しくなるし、自分の足をよく理解するので正しい歩き方、適した靴が分かり、年をとってもずっと自分の足で歩けるようになります。私が目指すのは、足から身体全体の健康を支えること。家の土台とも言える足のケアによって、元気な毎日をサポートします。

施術では爪の形や生え方を細かくチェックするので、診察に行く時は爪を切らずに行くのがベスト。

実際にフットケアの体験へ

——徐々にフットケアの大切さが分かってきました。私の足は大丈夫でしょうか?

では、実際に診てみましょう。まず足を湯につけ、爪に十分水分を含ませて柔らかくします。乾燥していると、切った衝撃で爪が割れてしまう可能性があるんです。

——普段、全く手入れしないのでプロの方に足を触ってもらうと心地よいですね。なんか、すごく贅沢な気分です。

皆さん、そうおっしゃいます。それに、足を刺激すると全身の血流がよくなるので、フットケアは脳の活性化にも良いと思いますよ。あれ? 足の指先がZ字型になりやすく余分な力が入っていますね。もしかして子どもの頃、サイズの大きい靴か、足に合わない靴を履いていませんでしたか?

——足先を見ただけでそんなことまで分かるんですか!? たしかに「すぐ体が大きくなるから」と上履きや運動靴はいつも大きめを履いていました。

たぶん、靴がぶかぶかで不安定だから、足の指先にグッと力をいれて固定していたんでしょうね。その時の癖で、今も指先に余分な力が入っています。例えるなら、手を第二関節まで縮めたまま逆立ちしている状態。身体を支える面積が狭くなりバランスが崩れやすく、今後、加齢とともに転倒リスクが高まり心配です。

——え!そうなんですか? この癖を直すには、どうしたらいいんでしょう?

足の指でグー、チョキ、パーを作る練習をしてください。特にパーの時に指先が甲の方へ反らないように。かかとから指先までが一直線になるよう意識します。
それともう一つは、お風呂で湯船に浸かった時、浴槽の壁に足の裏をピッタリつけ、グッと力を入れて押す練習。この時も、指先がZ字型にならないよう足のかかとから一直線にキープしてください。

足の指をグーにする練習。毎日続けると、徐々に足の形が変化し効果を実感できます。

この場所を好きになってほしい。そのために今の暮らしを目いっぱい楽しむ

——これで、どういう効果があるんですか?

指先を曲げる癖がついているので、指をまっすぐ伸ばし、本来の足の形を思い出す練習です。一日数回ずつでいいので、指先のストレッチを続けてください。

——そんな癖があるなんて全く気づきませんでした! 早く教えてもらって良かったです。

フットケアはまだあまり知られていなので、今後はもう少し積極的に情報を発信しより多くの方にその重要性を伝えていきたいです。

——それは、今後の目標ですね。

はい、それともう一つ。地域の医療や保健(予防)、福祉(介護)と、より密な連携を図っていきたいです。今でも、爪のトラブルがあると連絡を受け処置していますが、予防の段階から関われば、患者さんも痛みを我慢し続けなくて済みますし、転倒予防にもなります。

——当初の目標である「地域に根ざしたお店」を目指して頑張ってください。

ありがとうございます。「足もとから全身の健康を支える」という意識が広まり、皆さんに一日も長く自分の足で歩いてもらいたいです。
そのためには、この地域の若者がフットケアに興味を持ち、仕事にしたいと思ってもらうことからですね。この仕事はまだ認知度が低く、人口の多い都市部でしか成り立たないと言われていますが、そんなことはありません。私のように田舎で暮らし、野菜を育て、子育てしながら、十分生計を立てることができます。まずは私自身がそれを実践し、参考となる生活スタイルを確立していきたいです。

text : Ryoko Takeda
photo : Muthumi Tabuchi

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