#くらす

外で学んだことを生かして、何かを起こす
地域の希望になるような活動を

矢野大地さん

2022.10.26

#くらす #地元民 #Bエリア_日置_府中

Bエリア_日置_府中

宮津市北部の日置地区。きれいな海と田園風景が広がるこの地域で、レモンの栽培に取り組む若き「チャレンジャー」がいます。矢野大地さんは2年前に日置にUターンし、レモン農家になりました。農業法人を立ち上げ、キッチンカーの営業や農家民泊といった事業にも挑戦しています。地域への熱い思いや、地域と移住者との関係について、お話を伺いました。

600本のレモン畑

――ここが矢野さんのレモン畑ですか。海が近くてとてもさわやかですね。

ありがとうございます。3年前から植え始めて、今育てているのは600本くらいですね。大きいやつだと2m50cmくらいに成長して、僕の身長をはるかに超えちゃいました。ここは日当たりが良いし、海からの風も抜けて、農作業をしているとすごく気持ちが良いです。

これは2年目のレモンの木。丁寧な剪定を繰り返し、実をつけるまで育てている最中

――育てたレモンはどうされるんですか。

今は木を大きくしている段階で、収穫はできていないんですが、昨年から知り合いの農家のレモンを使ったレモネードをキッチンカーで販売しています。『まだ、名もなきレモネード』という名前で、結構市民の人にも認知してもらえるようになってきました。初めて会った人にも『レモネード屋さん』って言われることもありますね(笑)

地域の希望になる活動を

――矢野さんがレモン栽培に取り組まれるようになった経緯を教えてください。

僕は日置の出身なんですが、大学進学から2年前まで、高知県に住んでいたんです。本山町っていう、人口3千人くらいの山の中の村に、『ぽつんと一軒家』みたいな古民家を借りて、自給自足みたいな生活を送っていました。というのも、大学時代に東日本大震災の被災地に滞在することがあって、津波で壊された町を目にする機会があったんです。そのときに、貨幣経済で作られた社会って津波で流されてしまったら、すごい弱いものだと感じたんですね。必要最低限の生活は自分で作れるようになりたいと思い、農業や狩猟にも挑戦しました。
 そんな生活を送る中で、日々の暮らしをブログで発信していたんですが、次第に都市から生き方に疑問を持った人たちが来るようになって。こういう体験、経験が求められてるんだって気付いたんです。これを持続的にできる事業にしてみたいなと思い、空き家をシェアハウスに改修したり、滞在プログラムを作ったり。そうして移住者を増やす活動に取り組んでいました。

これまでのこと、これからのことを楽しそうに話してくれる矢野さん

――高知で活動をする中、宮津に帰ってきた理由はなんだったんでしょう。

活動も軌道に乗ってきたころ、ぼちぼち自分の次のキャリアを考え始めました。今までの経験を生かして、故郷の宮津で何かしたいなと考えていたんです。家族と定期的に話すようになって、たまたま日置に帰ってきたときに、地域の農業の話を聞きました。農地にほとんど価値がなくなってしまって、お金を払って使ってもらわなくちゃいけないと。でも、その土地って、どうやって使うかによって価値は大きく転換できるんじゃないかって思ったんです。うちの実家もただ同然で土地を貸してました。その土地で、新しい農業ができないか。お米が儲からないけど、土地を守るためにみんな苦しみながら農業をしている、そんな現状を見て、地域の希望になるようなことができないかと考え始めたんです。

日置の区画整備された田園は、秋には金色の美しい景色を見せてくれます

レモンを宮津の特産品にしたい

――その中で、目を付けたのがレモンだったと。

実家に、母親が植えたレモンの木がありました。ある時、雪が降っている中、ふと庭のレモンの木を見てみると、黄色の実がなってたんですね。レモンって温暖な土地で栽培するイメージだったんですが、こんな雪が降る中でも育つんだ、とハッとしました。海に映える黄色と白色のコントラストがきれいで、そこに可能性を感じました。それに、今レモン酎ハイとか、レモネードとかブームが来てますよね。加工もしやすくて、稼ぐ農業ができるというところにも魅力を感じました。昨年、レモネードの販売や農作業を行う株式会社『百章』を立ち上げて、今は農家民泊事業などにも取り組んでいます。

雪の積もるレモンの実。(矢野さん提供写真)

――鮮やかなレモンと海の青、それに純白の雪。宮津の冬の新しい景色になりそうです。

将来的には、加工や販売で、宮津の新しい特産品と呼ばれるようにしたいです。宮津のどこの店、旅館に行っても、地元のレモンを使っているという状況にしたいんですよね。宮津って地元のものが食べられるところが少ないんですよ。どこでも食べられるようなものしか売っていない。そうなると観光でも、天橋立の写真を撮って終わり、二度と来ないということになってしまう。そうではなくて、『食』を宮津の魅力にしたいんです。まずは、レモンという切り口から、地元の食材を使う風土を育てていきたいと思っています。

大事なのは地域との距離感

――矢野さんは地域の活動にも参加していますか。

近くに家族が住んでいるので、分担してやってもらうことが多いです。単身で田舎に住み始めると、そういう点が大変なんですよね。地域になじむために草刈りとか消防団とか、いろんなことに参加すると、活動だけでいっぱいいっぱいになっちゃうことがあるんです。だから、どう断るかがとても大事だと感じています。周りの人からはすごく勧誘されるんですけど、僕は消防団も入っていません。これは移住を希望する人に伝えたいんですが、自分が地域との距離感をどう詰めていくのかをしっかり考えないと、本来自分がやりたい暮らしや仕事がままならなくなることもあります。ある程度地域に住んでみて、余裕ができないと地域の活動には首を突っ込まない方がいいです。

母校の小学校は廃校になり、今は公民館に。

――なるほど、移住のリアルですね。

もちろん、コミュニケーションを取ることもすごく重要です。田舎では、よそ者としての振る舞い方が大事だと思いますね。たとえば、移住者がインターネットで仕事をする人だと、地域の集まりでは絶対、『あの人どうやって稼いでるんや』っていう話になります。どんな風に稼ぎを得ているのかがすごく気になるみたいですね。そこは、ちゃんと説明できるようにしておくとか。そういう工夫も必要です。あと、農業をすることは、確実に地域の信頼を得ることにつながると思います。
僕は、外で学んだことを生かして、何かを起こしてやろうという思いで帰ってきました。だから、あんまり地域と近すぎないようにしようと思っています。外の人と交流する仕事をしているので、地元の空気に染まりすぎないようにしたいなと。ただ、僕はUターンで、道を歩いていたら近くのおっちゃんに『大地くんよう頑張ってるな』って言われるような関係が元々あるんで、良くも悪くもコミュニケーションの取りやすさはあるんですが、外から来る人は一から人間関係を作っていかないといけない。それがすごく大変だと思います。

移住者のチャレンジを応援したい

――地域では移住者を受け入れる態勢はできつつあるんでしょうか。

日置でも意識は大きく変わってきていると思います。宮津の他の地域で移住者が新しいことしたり、特産品を作ったりってことを、メディアを通して知ることで、日置も移住者を入れて盛り上げよう、みたいな。地域の集まりでは、移住してきた人とのコミュニケーションをどうしていこうとか、受け入れる体制作っていこうという話も出ています。ただ、仕組みがないんですよね。そこは、僕がどう振る舞えるかだと思っています。僕は外から来る人に偏見はないですし、田舎に住む難しさとかを理解しているので、移住者に教えられることはあると思います。今、田舎暮らししたい若い人ってほんとに増えてます。そういう人たちが日置に住んでみたり、サラリーマンをしながら農業をやってみたり、そんなチャレンジを応援できるような環境作りをしていきたいと思ってるんです。

――矢野さんがいれば、移住者の方も心強いと思います!

宮津で新しいことをしたい人をサポートしていきたいですね。僕が道を切り開いていくことで、そこに多くの人が入ってきてもらえたら。今、田舎の暮らしの良さや魅力が再定義され始めているのは、すごくチャンスだと思っています。自分たちの活動が地域をもっと魅力的な場所にできれば、移住やUターンでもっと宮津を活性化できる。外に出て分かったのは、こんなにいいところ他に無いなって。せっかくポテンシャルがあるんだから、今のままではもったいないですよ。日置だけでなく、宮津や丹後をもっと魅力的な場所にしていきたいと思っています。

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